『うわさ再考』第四弾。会社の安心経営は、何に担保されているのか?
18年ほど前、日本人の特徴を物語るエスニック・ジョークとして、台湾に駐在している、とある日本人経営者からこんな話を聞いた。台湾赴任前にアメリカ駐在時に聞いた話だと言う。
沈みゆくタイタニック号。そこから安全に避難するには、救命ボートに乗り込むべきであるが、席は限られている。船員であるあなたは、子供と女性を優先して避難活動を行うが、声をかけていく相手は様々な国からの乗客。非常に限られた時間でいかに説得するか。必要なのは、もはや、ロジカルな言葉ではなく、相手が「腹落ちする=納得する」言葉。相手にとってみれば、「説得されれば、救命ボートの席を譲ることで、自分の生命は無くなるかもしれない(海に飛び込んで助かるかもわからない)」という局面。一番胸に響く言葉は何か?
さまざまな国の乗客…
ドイツ人に対しては、
「子供と女性に席を優先する。これが規則です」
アメリカ人に対しては、
「子供と女性に席を優先する。それで、あなたはヒーローになれる」
そして、日本人に対しては、
「子供と女性に席を優先する。みんなそうしている」
あまりにもステレオ・タイプではあるが、日本人に対する件(くだり)の部分は、わたしが海外で出会った「日本人マネジメントの経営判断に対するスタンス」を端的に表していた。
例えば、「当地の企業とのパートナー・シップを築く時」、「昇給率や賞与の支給月数を決定する時」、「取引先との会食等の接待が行き過ぎにあたらないか推しはかる時」、「社員の不正行為の処罰を決定する時」に、多くの日本人マネジメントが判断の基準にしているのは、【こういう時、他の日系の会社はどうしているか】という他者の物差し。
上述のエスニック・ジョーク(沈没船ジョーク)は、18年ほど前に台湾の日系企業の日本人マネジメントの定期会合(20名ほど)へセミナー講師として呼ばれ、そのなかの日本人マネジメントA氏から、海外現地法人に対する危機感をもって引き合いに出された話。
最近、調べてみると、この沈没船ジョークは、「ボートの席を譲るための説得」ではなく、「(ボートの席が足りないので)海に飛び込ませる説得」として知られている模様。とはいえ、話のネタで伝えたいことの中身は同じ。日本人が、横並びで物事を考え、決め事をするという点である。「日本人は自分(自分の基準・物差し)を主張せず、他者(周り)の基準をとても気にし、他者の基準を使う」。
さらに、海外現地法人が何か決め事をする際に、日本本社におうかがいを立てる(承認を得る)ということが求められる会社も増えている。そして、日本本社が聞いてくる質問は「現地の多くの日系企業は、そのような場合、どうしているのか?」。笑うに笑えない状況である。事細かに本社に報告をして、日本本社取締役会の承認を得ることを求められ、さらには「現地日系企業が行っている手法なので問題ない」というひと言で皆が安堵して、承認され、これでやっと事が進む。
海外現地法人で即断即決が出来ず、ガバナンスという大義名分のもと、他者(他社)の物差しで判断がなされる。スピード感もなく、判断基準が不合理なまま、他者基準なら安心というセンスでは、グローバルな市場では勝てない。海外現地法人のマネジメントの舵取りは、沈みゆくタイタニック号のそれとダブって見えやしないか。
“O Captain! My Captain!”
あなたは何処(いずこ)へ…
※ O Captain! My Captain!:映画『いまを生きる』でも引用されたホイットマンの詩より。
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