うわさ再考:「社員の評価、役職登用や待遇、採用、解雇などの人事権は会社にあり、最終的には会社が決められる」

『うわさ再考』第六弾。「社員の評価、役職登用や待遇、採用、解雇などの人事権は会社にあり、最終的には会社が決められる」という考えは、正しいでしょうか?

結論から言えば、間違っています。「合っていること」と「合っていないこと」が混在しているという意味で間違っています。

まず、「社員の評価、役職登用や待遇、採用、解雇」を十把一絡げ(じゅっぱひとからげ)に議論すると足元をすくわれるので、この点に注意することが必要です。

論点をきちんと切り分けして、目的を捉えたうえで判断をするという、あたりまえのことをすればいいだけです。しかし、日本企業では、そのような論点の切り分けがされることはほとんどありません。

これはどのようなことについても言えるのですが、特に、日本、台湾を問わず、往々にして、マネジメント層は、人事労務マネジメントを重視しない傾向にあります。わたし自身は、日本と台湾での、電子部品メーカーでの勤務とコンサルティングの経験(日本での海外関連業務5年、海外での勤務15年)がありますが、これは長らく感じてきたことです。今後、別のページでもふれたいと思いますが、これは実は海外で社員のモチベーションを高く維持したり、人材を確保するうえでのネックにもなっています。

マネジメントは、正しい認識をぶれることなく持つことが重要です。なぜか? 法律、判例、当局(日本の労働基準監督署に相当)、顧問弁護士の見解、会社の就業規則、会社の各部門部長の認識、会社の総務・法務担当者の認識、過去や現状の会社の実務の実際など、整合性がとれない場合がほとんどだからです。行政機関(労働基準監督署)のコメント、アドバイスには、行政機関の立場的な見解(バイアス)が込められています。これにミス・リードされることのないようにしましょう。そのためには、マネジメントが正しい理解のもと、会社のオペレーションをしていくことが必要です。

人事マネジメントは、守りだけではなく、攻め(会社の業績アップ)のために非常に重要なポジションを占めるため、マネジメント自身がこの点を認識することが肝要です。

以下、「社員の評価、役職登用や待遇、採用、懲戒、解雇」を分けて見ていきましょう。

(1) 社員の評価

評価は各部門の上司が、年度を区切りとして、定期的に(多くの会社では半年に一回)部下の人事考課のための評価面談を行いますが、評価の過程、中身、結果が部下にフィードバックされていないことがほとんどです。

まずは年度初めに、目標の設定を部下すり合わせ、部下にコミットさせることが重要ですが、そもそも上司がこれを怠けていることが実態としてあります。上司は、部下の育成を年度の目標に盛り込んで、上司自身がその達成をコミットすることをマネジメントが強く要求しなければなりません。そして、「部門間の評価の基準の甘辛のすり合わせ」や、「一次評価者の評価トレーニングによって評価制度をうまく運用し、評価そのものの正当性を担保すること」がほとんどの企業に共通する課題です。

最終的に、「評価(evaluation)の合理性」を会社が「評価検証(assessment)」したうえで、必要に応じて部門に是正を求めなければなりません。但し、会社は恣意的に特定の幹部・社員に対する評価の変更を求めることはしてはなりません。なぜなら、評価制度を骨抜きにしてしまうからです。評価制度の運用においては、一次評価者の役割が非常に重要。人事異動等で各部門の一次評価者が代わる場合は、一次評価者の評価トレーニングの実施を怠ってはなりません。社員から評価制度に対する不信感や不公平感を持たないようにするだけでなく、本来、手間をかけて評価面談、評価を行うことの意義・目的に立ちかえる必要があります。

評価制度は、本来、会社が求める人材を育成していくための基盤であり、求めたパフォーマンスをきちんと評価して、社員に対してフィードバックをする、処遇に反映することまでが必要です。また、留意点として、労働組合の活動が会社に不利な影響をもたらしたとしても、それを理由に評価を下げることは、会社(雇用社側)の「不当労働行為」となってしまいますので、各部門の評価者に対する指導も必要です。

(2) 役職登用

複数年の評価結果(人事考課)をもとに、役職登用を行いますが、会社に人事権があることを周知徹底しなければなりません。役職登用の決定権はマネジメントにあることを部門長にも周知することが肝要です。【「部門本位の立ち回り(セクショナリズム)に執着する上司」の利益に迎合して、結果的に会社に不利益をもたらす社員】の役職登用には目を光らせる必要があります。特に海外においては、ほぼ全ての上司は「自分を超える部下を育てることをしない」、「自分と異なる考えの部下を引き上げず潰しにかかる」という傾向があることをマネジメントは認識しておかなければなりません。大鉈(おおなた)を振るって思い切った人材登用を実行することで、問題のある部門長や幹部を淘汰し、社内各部門に対してうまくゆさぶりをかけ、社員のモチベーションを抜本的に改善したマネジメント(日本人駐在員)の実例も、今後ご紹介していきます。

(3) 待遇

海外では、日本人以上に、賞与や昇給に対して敏感で、メリハリの効いた待遇を実行するための制度とその運用がカギです。「皆公平に」、「角がたつことを避けたい」という日本人社会にありがちなマインドは、百害あって一利なし。むしろ日本人の「待遇に対する寛容さ(鈍感さ)」は、世界的に見て特異であると認識する方が正しいと考えます(日本企業のガラパゴス的な一面)。きちんとした働きに対しては、タイムリーに、まっとうに賞与や昇給に反映して応えることが肝心です。待遇に対しての説明責任は、マネジメントにあります。「メリハリの効いた待遇」に異論を唱える幹部・社員がいれば、マネジメントが矢面(やおもて)に立てばいいだけのこと。人材マネジメントのポイントになる「待遇」について、マネジメント(経営者)はきちんと向かい合うことが重要です。

(4) 採用

縁故採用は、日本企業ではまだまだ残っています。わたしは個人的には縁故採用には反対の立場をとっています。ガバナンス強化を論じる会社においても、マネジメントと懇意な関係にある幹部の子供が縁故採用されるケースを見聞きすると、説明責任に欠けていると感じます。

(5) 懲戒

就業規則に明文化して社員に周知しておかねば、懲戒はできないという考えを持たなければなりません。特にガバナンス強化が叫ばれる今日において、「こんなことをしたら、言わずもがな懲戒は当然でしょう」というセンスは無邪気なものとして、マネジメント自身の考えを変える必要があります。これも別途、後述しますが、(これまで30社ほどの就業規則を見てきましたが)ほぼ全ての海外現地法人の就業規則は見直しをしなければならない状況です。マネジメントは就業規則を一度レビューしてみることを強くおすすめします。

(6) 解雇

特に細心の注意を要するのが、「解雇」です。国により、解雇法制や判例が異なりますが、台湾は非常に解雇が厳しい状況にあります。そのためにどのような点に留意しなければならないかについては別途、後述します。重要なのは、「就業規則」、「入り口(採用時)」、「雇用契約書」、「倫理規定等の誓約書」、「過程の指導」、「出口(解雇面談」やこれらの記録です。また、「(1) 社員の評価」と同様に、労働組合の活動によって会社に不利な影響をもたらした社員を、それを理由として解雇することも、会社(雇用社側)の「不当労働行為」となってしまいますので、留意が必要です。

 

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